【あるものエッセイ】あの電柱

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我が家は目の前に建物はなく窓の外はとても開放感のある立地なのだが、カーテンを開けると50mほど先に電柱が一本デーンと立っている。その電柱があるばかりにちょっと残念な風景になってしまう。

「せめて電線だけならよかったのになあ」と思いながら、人目もあることだし、まぶしいしと色んな理由でその窓のカーテンは何年もほぼ閉じられたままだった。

年末めったにやらない大掃除がてら、なんとはなしにそのカーテンを開けると思いがけず青い空と白やグレーの雲がぶわぁっと視界を覆った。こんなに大きな空が家の中から見えていたとはなんてもったいないことをしていたのだろう。家にいながら自分の世界が急に広がるのを感じた。

それからというもの開けていられるときはカーテンは広く開けていることにした。窓の中は動く絵画のようで、さまざまなカタチの雲が左から右に流れたり、強風にあおられたビニール袋が切なげに舞っていったりした。

毎日眺めているうちに、我が家の前の電線にだけ鳥が集まることにきづいた。電線はどこまでもどこにでも伸びているのに、我が家の前にだけわざわざみんな来るのである。「鳥に好かれているのかなぁ」と悪い気はしないと思っていると、どうも我が家の前というよりはあの電柱のそばに集まっているらしかった。あ、そう。

鳥はスズメとハト、ごくたまにカラスもいる。20羽くらいだろうか。ハトは白ハト一匹がまじっていて地上でもよく見かける集団だと思われる。この辺に棲みついている群れだろう。鳥は種類や色が違っていてもなんとなくみんなでそこに集まって電線の上を横歩きでくっついたり離れたり、ときどき飛び立っては戻ってくる。

日によって上の電線にはスズメだけ、下の電線にはハトだけといった風にそれぞれきちんと整列していることもある。ある日一羽のハトがあとで遅れてやってきた。スッと上のスズメの電線にとまって羽をばたつかせた後、「あ、あれ、オレなんか違うとこいる…?」と首をキョロキョロさせ気まずそうに仲間のいる下の電線にそろっと降りた。それから隣のハトに横歩きで近づくと「ちょっと先に言っといてよ〜」といった様子でくちばしで小突いた。鳥にも鳥社会や鳥ルールがきっとあるんだろうと思う。

朝カーテンを開けると誰かしら(?)少なくとも一匹か二匹はそこにいて「おはよう」などとメルヘンに傾きそうになり、誰もいないとよく分からないうすらさみしさを感じる。青空を背景にいっせいに飛びたち、きれいに旋回して飛び去っていく様子はさながら映画の1シーンのように圧巻で気持ちがいい。今はあの電柱があって良かったなぁなどと勝手なことを思っている。

あの電柱
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